ふくい産業支援センター 情報誌 ファクト12月号に載りました。

完成への道のり
商品はどのようなプロセスで完成されていくのか。 企業によるアイデアの創出から新商品誕生までの 開発ストーリーを紹介します。

アルコール分ゼロの魚醤油で海外市場狙う

 日本人におなじみの調味料、醤油。その国内出荷量は、食事の洋食化や消費者の減塩傾向から右肩下がりの数字を示しています。そんな中、福井県立大学と共同で新商品を開発したのが醤油醸造業の株式会社室次(福井市)です。業界の常識を破る「アルコール分ゼロ」の魚醤油で、戒律の厳しいイスラム圏への拡販を目指す同社。商品開発の道のりを、同社代表取締役の白崎裕嗣氏に伺いました。

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文中でご紹介の3種を含めた人気のセット。インターネットを中心に県内の販売店でもお求めいただけます。

 

安心安全へのニーズが
原点回帰のきっかけに

 1573年、現在の福井市田原で『室屋』として創業した同社。15代にわたり醤油醸造を続けています。

 醤油づくりは本来、日本酒のように冬に材料を仕込み1年かけて行うものでした。しかし、高度経済成長時代になり醸造期間を3カ月程度に縮めた「速醸醤油」が業界の主流に。安価な品を求めるニーズに押され、同社も速醸醤油を手掛けざるを得なくなりました。

「商売のためとはいえ、先代だった私の父は死ぬまで『速醸醤油は醤油なんかじゃない』とこぼしていました」と白崎氏は振り返ります。

 世間の風向きが変わってきたのは今から5~6年前。食の安心安全がクローズアップされ、無添加醤油の問い合わせが増え始めたそうです。

「長く醤油づくりをやってきたからか『室次さんに聞けば安心安全な醤油が手に入ると思った』と言われました。そこで、原点に返った天然醸造醤油づくりをしようと決めたのです」

 現代の醸造設備で江戸時代のレシピを再現した『幕末のソイソース』を売り出したのは2011年3月。醤油本来の味わいを知る白崎氏は満足したものの、他方で「食品添加物入りの醤油に慣れた消費者には味のインパクトが弱いのでは」とも感じたそうです。

 そこで、天然醸造の醤油に合う天然の旨み成分を求めてネット検索。魚の発酵作用でつくる魚醤(ぎょしょう)に行き着きました。しかし、魚醤の風味は独特で好き嫌いが分かれると判断。調べを重ね、福井県立大学特任教授の宇多川隆氏が無臭魚醤の研究をしていることが分かりました。

 宇多川教授の快諾を得て共同研究を開始。県の補助金も活用して、天然醸造醤油と無臭魚醤を合わせた商品を開発し、『旨醤(うましょう)』という名で2012年に発売しました。大豆醤油(だいずしょうゆ)由来のグルタミン酸、魚醤由来のイノシン酸を多く含み、旨み成分は従来品よりも20%アップ。塩分も50%カットし健康志向の消費者にも注目されました。

白崎氏は「天然醸造の醤油には、アミノ酸をはじめとした体に良い成分が約300種類も含まれています。塩分にさえ気を配れば健康食品として機能するのです」と胸を張ります。

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商品開発の拠点、福井県立大学の研究室の様子。(左)
天然醸造醤油専門蔵。その年ごとに、気温などの影響で出来も変わってくるそう。(右)

 

魚醤製造技術を応用し
常識破りの商品を実現

 『旨醤』発売と前後して、宇多川教授のもとに日本ハラール協会から「アルコール分ゼロの醤油がつくれないか」と相談が舞い込みます。

「豚肉の入った料理やアルコール分が含まれる食品などを口にしてはいけない」という、イスラム教の戒律に従って製造されている調味料を求めているとの話でした。宇多川教授は、麹菌の代わりに鯖の内臓に含まれる分解酵素を活用し、高温で発酵させ発酵時間を24時間程度にする「速醸魚醤」の技術を応用。アルコール分ゼロを実現させました。

白崎氏は「従来の醤油製法では3%程度のアルコール分が含まれてしまいます。私たちにはアルコールゼロの醤油など全く発想できませんでした」と話します。

 『福むらさき』と名付けたこの醤油は今年2月、NPO法人『日本アジアハラール協会』からイスラム教徒が口にしても問題ない「ハラル認証」を取得。3月に開かれた世界的な食の展示会『FOODEX JAPAN』(会場・千葉県幕張メッセ)に出品したところ、空港関係やホテル関係の業者からの問い合わせが殺到しました。

「イスラム圏でも日本食への関心は高く「スシバー」も少なくありません。しかし、醤油については中国や韓国から『醤油風の調味液』を輸入しており、本来の日本の醤油の味を知らずに寿司を楽しまれているのが現状です」。白崎氏は、展示会で知り合った商社や日本貿易振興機構(JETRO)などを通じて、海外展開を進める考えを示しました。

「1962年、事業多角化の一環で始めた石油事業から『室次=ガソリンスタンドの会社』と思われている方も多いでしょう。ハイブリッドカーなどクルマのエコ化が進む中、改めて本業が着目され時代がひと回りしたと実感しています。
『幕末のソイソース』『旨醤』『福むらさき』を息の長い商品に育て、国内外の新市場を開拓していきたいです」と意気込みます。

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「醸造にごまかしはない」同社の理念を表す書。

 

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白崎 裕嗣 氏

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株式会社室次

所在地:福井市田原2-4-1
電 話:0776-22-2001
代表者:白崎 裕嗣 氏
資本金:3800万円
事業内容:醤油製造販売、味噌・塩・油脂・石油の販売
従業員数:18名(アルバイト含む)

お知らせ | 2014年12月31日
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